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  一村一品は極上の肉

 レストハウスの浴室で突如闖入してきた暴漢たちに拉致された村井真樹は薄暗い一室で意識を取り戻した。裸電球に照らされたその部屋はひどく殺風景で倉庫のたぐいを連想させた。しかし彼女が辺りの様子に気取られていたのも一瞬であった。すぐに自分の肉体に起こっている異常について苦痛とともに思い知らされたのだ。
 「……」
 口に何かを詰めこまれ、鼻まで覆うタオルで猿轡をされている。
 身体は全裸のままであったが、その裸体を窮屈に拘束されている。荷造り用のロープと思われる縄でまず後手にきっちり縛られている。真樹の匂うような人妻の白肌にそれは食いこみ、手首を交差させて高手に繋ぎ、前に回して豊満な双つの乳ぶさの上下に二重三重と巻きつけれられている。手首の感覚がなくなるほど痺れきり、呼吸も苦しいのはこのためだったが、もっと異様なのは下半身だった。長いすらりとした両肢は胡坐に組まされ、手首と同じように足首もまた緊縛されていた。その縄尻を長く伸ばして乳ぶさを挟んでいる胸縄に通し、首を一巻きしてもう一度足首に戻っている。真樹がこれが胡坐縛りなる拘束の仕方であるのを知るのはあとになるのだが、その時は屈服するように丸められた背中と折り畳まれた股関節がジーンと怠く、砂袋でも背負わされているような首の疲労と肩の凝りに脂汗を額に滲ませるのが精一杯。わずかに自由に動く、細首を前後左右に振り、足首から先をモゾモゾと蠢かせてみたが、自分の取らされている姿勢の卑劣さを確認するだけであった。
 いったい自分がなぜこんな不様な格好にされているのか──真樹の頭に『誘拐』の二文字が浮かび上がってきた。ぞっとして心臓が縮み上がり、全身の産毛がささくれだつ。それも単純な欲情を満足させるために衝動的に行なわれたものでないのはたしかである。尋常でない連れ去られ方をみればはっきりしている。浴室全体を大ががりに工事しなければ出きっこないのだから組織的で計画的な犯行であろう。
 でもなぜ……。営利誘拐ではあるまい。根拠はないのだが直観的にそう思う。人身売買のための人さらい、かどわかし、そんな言葉が脳裏を横切った。行方不明になる海外旅行の邦人や留学生を雑誌で目にするがそれに似たものではないか。真樹は絶望的にがぶりを振った。入浴のために結んでいた団子はいつしかほどかれて濡れ羽色の黒髪が頬を掠めた。
 「うう……」
 夫の顔がオーバーラップしてくる。
 (あなた、早く助けにきて、いまならきっとまだ間に合う──)
 激しく情交をかわした妻が入浴している途中で忽然と姿を消してしまって途方に暮れている彼の姿が容易に想像できた。真樹の胸に熱いものがこみあげてきて、ふいにこの狼藉に対する激しい怒りが沸いてきた。真樹は敢然と藻掻きはじめた。なんとしてもこの忌まわしい戒めを振りほどき、夫の元へ帰るのだ。彼の腕に抱かれ、変わらぬ愛を誓いあうのだ。しかし縄は巧妙に淫辣に肌に食いこんでいる。まるで蜘蛛の糸のようである。藻掻けば藻掻くほど絡みつき、柔らかい肉を締めつけてくる。彼女の白い身体が苦渋の汗で鈍く輝き、頬や胸もとや太腿のつけ根辺りがほんのりと赫らんだ。縄は抵抗の力ばかりか気力までも女体から吸収してしまう作用が備わっているようである。背中の十本の指が助けを求めるように開かれ、そして手のひらに爪が食いこむほど硬く握り締められる。
 真樹はがっくりとうなだれた。とても無理だ。自分の力でほどけるものではない。頭髪に隠れた彼女の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。これっきり私は太陽の光もあたらぬ暗黒の底に連れ去られ、一生、夫には再会できず、もう二度とあの幸せの日々には帰れないのだろうか。信じられない。許されるはずはない。今にも警察が踏みこんできて救出され、あっさり悪夢から解放されるに違いない。そう、これはきっと夢なのだ。それ以外は考えれられない。考えたくはない──。
 この倉庫とおぼしき一室の扉に鍵が差しこまれる音がした。真樹は顔を上げ全身を緊張させた。ドアの向こうにいる人間が味方であることを願いながら。
 「奥さん、気がついたかい?」
 入ってきたのはトレーニングウェア姿のむくつけき大男三人組。目出し帽も迷彩服もなかったが彼らがバスルームに押し入ってきた男たちであるのはすぐにわかった。真樹の頭は恐怖でカァーッと熱くなり、同時に奇天烈な縛りにされている裸身を晒す羞恥に顔をから火が出た。
 三人はニヤニヤしながら真樹のまわりを取り囲み、腰を屈める。剥き出しの肌に刺さってくる男たちの視線に、睨みつけてやろうといった勝ち気な心も萎みがちで真樹は顔を背けるように伏せてしまう。
 「けっこうきついだろ。この縛り方」
 胡坐縛りっていうんだぜと三人の中ではいちばん年長らしい正面の男がいった。
 「SMの初心者に、SMの心を手っ取りばやく教えるには都合のいい縛り方だな」
 SM? ビクリとし真樹はやや青ざめた顔を上げて男をみた。
 「おうおう、おっかない顔しやがって。可愛い顔に似ず、性格はきついんだな、奥さん。胡坐縛りにされてもそんな噛みつきそうな表情の出来る女はそうはいないぜ」
 男はそういいながら視線を縄に強引に絞りだされてぷっくりふくれている美乳へ這わせてくる。真樹はそれを知ると背筋がざわつき、全身に鳥肌が立った。やっと振り上げた顔も再び伏せなければならなかった。
 「旦那と乳繰りあったばかりのおっぱいだ。ミルクが噴き出してきそうなくらいに色っぽいぜ、奥さん」
 三人が同時に下劣な嗤い声を発した。
 真樹は震撼してしまう。彼らは寝室での夫との睦ごとを覗いていたのだろうか。首根っ子を押さえつけられたような気分になった。
 「これから少しお話したいんだか、いいかい、奥さん、よく聞きなよ」
 ここはどんなに大声を張り上げようと外界には届かない場所にあるから助けを求めようとしても無駄である、と男は続けた。
 「男ってものは女のヒステリックな金切り声ってやつが大嫌いなんだ。ここにいる三人はとくに耐えられない。それを聴いたらカッとして顔の形がメチャクチャになるほど殴りかねないんだから、気をつけな。大事なのは奥さんの身柄がすべて俺たちの気分しだいで左右されるって事を心得るんだ。わかるな。わかったら頷いてみな」
 男は真樹のあごに指をかけて顔を起こす。真樹は恐怖と恥辱に慄えながらもかすかに頷いた。頭の後のところで結ばれていた手ぬぐいの結び目がほどかれた。口と鼻を覆っていた暑苦しいそれが取り去られ、真樹の形のいい鼻孔が新鮮な空気を求めるように大きく噴き広がる。口の中に押しこめられていたのは丸められた布状のものだったが人妻の唾液をたっぷり染みこませた布を男は二本の指で摘み出し、それで彼女の口のまわりを拭いてやった。
 「ハァ……」
 長らく開口されていたため、すぐには閉じられないあごを蠢かし、真樹は大きく胸を喘がせるほど息づくのである。
 美貌のすべてがあらわとなったわけだが、この女盛りの人妻の美しさに男たちは改めて見入ってしまう。顔の輪郭は卵形に近いがしもぶくれというほどでもない。その輪郭を縁取るように艶のある線の細い黒髪があごまで垂れかかっている。屈辱の皺を刻んでいる額は冴々として知性的だし、意志の強そうな眦のあがった眉はくっきりとしている。涙をため、わずかに充血している切れ長の瞳、鼻筋が通りなだらかに高くなる癖のない鼻、下唇が肉厚でぽってりとした口、どこも鮮麗でつりあいがとれ、男好きする顔なのだ。ムチムチした肉感的な身体つきとあいまって惚れぼれする魅力といっていいだろう。
 もっとよく拝みたいとばかりに、横に腰を屈めていた男が真樹の頭髪を掻きあげ、耳の後へ引っ掛けた。まだらに紅潮した頬とむっちりした耳たぶが露出する。つい、甘がみしたくなるような耳に、男は生唾を飲みこんだ。風呂上がりの女のうなじの艶かしさは格別で網膜が滲んでくるほどだ。
 彼の熱い鼻息をなおやかな首筋に受けてゾクゾクする嫌悪感を覚えながら、真樹は細首をビクッと振って、髪を頬に戻すのである。
 「縄もほどいて。身体中が痛くて我慢できない……」
 若造を無視して正面の男にできるだけ媚を含まないように毅然としながらいった。
 男はフフと笑い、再び重たげな乳ぶさに眼をやる。
 「もう少し味わいな。ここで奥さんが暮らしていく上で何か粗相をしでかした時に懲らしめのための縛りでもあるんだ。この辛さを身体に染みこませておけばその気の強さが疼いた時にも身体が自制するようになる。女は頭より身体で動くものだからな」
 男の視線はたっぷりバストを舐めまわしてから、股間にひそむ黒毛に絡みついた。
 屈辱に眼が眩みながらも真樹は必死に抗議した。
 「ここで暮らすとはどういう意味ですっ。だいたいあなたたちは何者なの。私をどうしようというんですか!」
 「こらっ」と男は一喝した。「金切り声を上げるなといっただろ。俺たちのいうとおりに出来ないようだと、胡坐縛りどころじゃねえ、もっと辛い懲らしめもあるんだぞ!」
 男は傍らの二人に目配せをする。すると二人は両側から真樹のスベスベした吸いつくような肌に手をかけた。
 「な、何をするのよ!」
 肩と折り曲げられた足をそれぞれ持って、よっこらしょと仰向けに起こしていく。
 「いやぁーっ──」
 真樹は悲鳴を振り絞りつつ、顔を真っ赤にして身体を揺すり立てたが男の力になんなく倒された。丸まった背が冷たいコンクリートの床につき、持ちあがった下半身は組み合わされた足首のすぐ下の女陰をあられもなく見せつけてしまう。夫のもので突き崩されたばかりのはずの三十女のオ×××はちっとも弛んだ様子もなくて、ぴったりと筋肉の強そうな蛤を閉じあわせているのだった。
 転がしはそこでとまらず、さらに彼女の下半身を持ち上げていく。
 「ああ……」
 後頭部を床に押しつけたまま、腰も背中も浮き上がった。ただでさえ前に折れている首がさらに内へ折れ、ずり落ちてきた双乳の中に埋まってしまいそうな感じである。
 「お尻の穴まで丸見えだよ、奥さん」
 男の声を絶望の中できく真樹。
 「少し剃らなきゃ駄目だな。女も年増になってくると身だしなみを忘れて困る」
 真樹の丸いヒップは張った両肢につられて緊張しているのに量感を失っていない。見事な巨臀だ。


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