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  繋鎖の先の虜囚

 スイミングスクールを終えると、小城啄治は夕食もそこそこにいつも密会に使用している部屋のあるフロアに下りていった。
 女弁護士、松本悠子を拉致監禁してからおよそ二週間がたつが、最初の二三日を除き、啄治はスクールを休んでいない。本当は二十四時間、べったりと悠子の側に張りついていたいのだったがそうもいっておれないのだ。失職中の外原とは違うし、『面倒』をみなければならない女は悠子だけではないのである。
 (チクショウ、今頃、悠子の奴は外原にイジメ抜かれているんだろ)
 外原こそ悠子にべったりだ。あれからほとんど外出をしていないのではないだろうか。悪魔に魂も何もかも売り渡したように修羅の道を突き進んでいる感じである。
 (ま、あんなルンペンとは違うからな。こっちにはいろいろとヤボ用が多いんだから)
 啄治はやや自嘲気味にスイートルームの扉をノックした。
 返事もせずに扉がかすかに開けられ、角刈り頭の一見してヤクザとわかる風体の男がこちらを値踏みする。
 「よ、遅かったじゃねえか」
 中へ招き入れたのは啄治と兄弟分の契りをかわしている邦福連合の山岸であった。邦福連合は政治団体の名をかたった暴力団である。彼はそこの幹部級の構成員だ。
 「すいませんねえ、何かと雑事が多くて」
 頭を掻きながらリビングに入ると啄治はきょろきょろと辺りを見回した。
 「おや、まだ済んでいないんですか」
 怪訝そうにいうと、真夏だというのに黒いスーツで身を固めてる山岸は苦笑しながら寝室の扉を指さすのだ。
 「もう五時間、入ったきりさ」
 「じゃ、あれからずっとだ!」
 啄治は大袈裟に驚いて意味ありげにニヤリとする。
 「あの先生、よっぽど夏子にご執心だったんだな」
 「当たり前よ。あの女、ただの美人キャスターじゃねえからな。先生も前の事件の時は随分と叩かれたんだ。ちょっとやそっとじゃ腹の虫はおさまるめえ」
 ま、かけな、と山岸。啄治は彼のタバコに火をつけ、自分も一服する。啄治の肉奴隷と化している西田夏子を、山岸に一日貸し出す条件で松本悠子の監禁場所を都合してもらったわけだが、その山岸が夏子を自分では抱かずに邦福連合のパトロン的存在である高木広靖都議会議員に与えるとは、啄治も予想していなかった成り行きである。なにしろ高木広靖といえば疑獄事件のたびに中心人物の一人として名前があがってくるダーティな政治家で、都の政財界では隠然たる力を持つ実力である。それだけジャーナリズムの攻撃にもさらされるわけで、歯に衣着せぬ舌鋒で売っている夏子は名誉毀損で訴えられるくらいに批判した過去があったのだ。その高木に夏子を弄ばせるとは山岸も因業な商売をするものだが、また高木を使って都の利権に食いこもうとしているのかもしれない。抜け目のない男である。
 その時、寝室の方から艶かしい女の声が響いてきた。あの部屋は防音施設を施しているはずだから、それでも声が漏れてくるとはよほどの大声であるわけだ。断末魔のヨガリ歔きか。聞き覚えのある夏子の最後の一吠えであった。
 「またイキやがったな、あのブンヤ」
 山岸が痛快そうに嗤う。
 「マリファナを軽く打ったうえに、尻の穴から座薬型の催淫剤をぶちこんであるからな。もう底無しだぜ」
 「薬を使ったんですか、大丈夫かな」
 少し驚いて啄治がいった。しかしいくらなんでも素面のまま高木広靖に抱かれるのは夏子も耐えられまい。どんなにヨガリ狂わせたとしても、解放したあとは死んだ気になって反撃してくるかもしれず、念には念を入れて薬で正常な思考能力を奪っておいたのは賢明な策といえる。
 「ラリッてへべれけになったところで高木先生のご登場だ。まさか自分が攻撃していた汚職政治家に抱かれているとも知らんだろうぜ。爺いの腑魔羅をみたら鼻の下のばしてしゃぶりついていきやがった」
 だが五時間も揉みぬかれれば、正気に戻った後は得体の知れぬ男に抱かれた自覚はあるだろう。その時の彼女の苦悩を思うと哀れというか、ざまあみろというか、さしもの女キャスターもすぐには立ち上がれまい。
 寝室の扉の鍵が開けられる音がした。山岸は慌ててタバコを揉み消し、立ち上がってスーツを着なおした。啄治もそれに続いた。
 「ほれ、とっとと歩け、崩れたら承知せんぞ」
 扉が開け放たれ、ムッする空気が流れこんできた。その後を追うように双つのヌメ白い肉体が重なりあいながら出てきた。全裸の西田夏子が四つん這いになってその背中にこれも全裸の六十代後半と思われるでっぷりと太った高木を乗せてヨタヨタと這ってきたのだ。
 「ううっ……」
 口に絞った手拭を咥えさせ、それを手綱のように後頭部へグイグイと引いている。夏子が少しでも止まろうとすると、その突き出された丸い尻を高木の平手がビシャリと叩きのめす。垂れた乳ぶさが哀しげに揺れている。夏子の身体は濁ったように助平汗で光り、肌にはところかまわず、歯型やキスマークがついている。内腿の影に見え隠れしているフサフサとした陰毛から垂れ下っているのは、高木の老体から乾坤一擲放出された精液の残滓に違いない。
 「牝馬め、怠けずに行くんだ。口先だけで行動しないお前らにわしが人生のなんたるかを教えてやる。がんがん走らねばまたケツの穴に突っこむぞ」
 とても選良とは思えぬ言葉に啄治は内心苦笑するが、このバイタリティあってこそ生き馬の目を抜く政界で長くやっていけるのだろうと、半ば感心もする。
 セミロングの黒髪を乱雑に頭のうえに束ね縛られているので白むちの表情はあらわである。猿轡を引かれて細首をぐらぐらと前後左右している夏子はよろけながらもリビングを一周するのだ。いつも気性の激しさをたたえている瞳は光が淀んで、心ここにあらず。啄治や山岸が視界に入っているはずだが誰かもわかっていないのであろう。
 「先生、ジャジャ馬ならしに成功したようですなあ」
 と山岸が卑屈に腰を低くしていう。
 「当たり前だ。正々堂々、一対一で向きあえばこんな小娘、御すのは簡単じゃわい」
 妙にテカテカと血色のいい顔をこちらに向けて高木は芝居じみて威張っている。おうせのとおりで、と深々と一礼する山岸。
 ややしばらく牝馬は歩いていたが、「御免なさいっ」と一声叫ぶと、とうとう力尽きて四肢をX字型に投げ出し潰れてしまった。
 「なんだ、根性のない奴だ」
 高木は尻や脇腹を抓っていたが、御免なさい御免なさいとうなされるようにいうばかりで夏子が反応しなくなると、ようやく諦め、よっこらしょと立ち上がる。
 「いかがでしたか。女キャスターの具合は」
 蒸しタオルを差し出し、山岸が尋ねる。高木は夏子のこんもりとした臀部を爪先で小突きながら、
 「うむ、テレビではツンと澄まして不感症みたいな顔をしているが、なーに、とんだ淫売だ。涎を垂らして歔き喚きおった」
 「すべては高木先生の教育の賜でございましょう」
 「フフ、女の浅知恵とはよくいったものだな。薬をちょっと打たれたくらいで正義感も思想も忘れおって、ケツを振るんだ。やはり女は家で男の帰りを待っているのが分相応だわい」
 素面の夏子が聞いたらカッとなって反発を見せてくるであろう論理を高木は得々と講釈している。ステテコを履き、山岸に手伝わせてシャツを着る高木は啄治へ視線をネメつけた。
 「小城君とかいったな。礼をいっておくぞ。久しぶりに痛快なストレス解消になったのはたしかじゃからな」
 啄治も深々と頭を下げる。
 「そのうちもう一度、こういう機会を作ってくれるように」
 「は、お安いご用で。今度は薬なしでお相手できるよう、しっかりと教育しておきましょう」
 啄治の言葉に高木はホッホと高笑いし、啄治の肩を叩いた。身仕度を整えると汚職政治家は名残惜しそうにグロッキーになっている夏子の伏臥体に視線を送った。
 「西田夏子め。こんなザマになっても明日の夜になれば平気な顔してニュース原稿を読むのだろうが。しかし写真やビデオはばっちり撮ったからな。もう自由に囀らせてはおかんぞ」
 肋骨をうっすらと浮かせた脇腹に足をこじいれ、女体を引っ繰り返す。阿呆のような顔を朦朧と揺らめかせ、乳ぶさも陰部も隠さず開け広げている痴態に三人の男たちは失笑する。
 「視聴者にこんな姿を見せたら腰抜かすな、西田夏子」
 高木は軽蔑の表情をあらわにすると、靴下を履いた足の裏でその美貌を踏みつけた。
 「山岸。これから後援会との会合じゃ。事務所まで送ってくれ」
 啄治には別れもいわない専横さで高木は出ていってしまう。
 「それじゃ、後は頼むぜ。それから例の女弁護士。どうやら高木先生もご存じのようだ。ひょっとすると今日みたいな場を設けてもらうかもしれないからよろしく考えといてくれや。なーに、あの爺いに恩を売っときゃいざという時に頼りになるんだから、損はねえぜ」
 山岸は目配せをすると急いで高木の後を追って出ていった。
 (なんだ? あの爺いが悠子を知っているって)
 ちょっと驚いた啄治だがその可能性はあるだろう。悠子は通常の弁護士業務だけでなく、弁護士会の人権委員として多方面で活躍していたのだ。敵味方を問わず政治家に知られていても不思議ではない。夏子といい悠子といい、進歩的なキャリアウーマンを手ごめにするのは最近の男に共通する欲望なのだろうか。
 (そこへいくと俺はなんとも幸せな男だな)
 夏子をソファに抱いていき、肌の汗を拭いてやりながら啄治は思う。個人的な思い入れとしては悠子にぞっこんの彼であるが、毎日となるとさすがに飽きてくる。妊婦だけに無理もできないのでフラストレーションもたまる。そんな時はこの白むちの美女を呼び出し発散する贅沢も可能なわけだ。それぞれの女を手駒にし、小遣い稼ぎを企むのもこれから考えていくべきかもしれない。高木広靖本人を含めて彼の周辺にはこういう遊びならいくらでも金をだす人間がけっこう多いのではないか。山岸に相談してみよう──。
 「白むち、まだ発情がおさまらないのか」
 啄治は頬をピタピタと叩き、頭を撫でた。
 「うーン……オ×××して……」
 とても夏子とは思えない言葉を舌足らずに口走り、ヌメヌメとした身体を絡ませてくる。
 「チ、ぷっつんしやがって。これじゃイジメてもつまらんのだがな」
 気の強い夏子を征服するのが快感なのである。
 「まあ、しょうがねえや。久しぶりにフェラしてもらおうか」
 啄治はソファの上に仁王立ちし、ズボンを下げた。すると命じるまでもなく、夏子は身を起こして白い指をパンツのゴムにかけるのである。脳を薬に侵されて雄の匂いに過剰な反応を示すようになっている夏子に、啄治のデカ魔羅の予感は刺激的すぎた。パンツを膝までずり下ろし、こぼれでた男根の形状と色を眼にし、鼻腔いっぱいに蛋白質の匂いを吸いこむとたまらず歔き声をあげ、激しい唾液の音をさせて猫のようにむしゃぶりついた。
 「こら、歯を立てるなよ。ったく、ひでぇ顔してるぜ。鼻の穴、おっぴろげやがって、どっぷり変態だ」
 ふくよかな乳ぶさの先端の尖りは真っ赤に充血し、痛々しいくらいに硬くなっている。手をのばしてそれを摘んでやると、傷に触れられた獣のように飛び上がり、双臀の狭間から小水を洩らしはじめた。
 酸鼻な女キャスターの体たらくに啄治は頓狂な声をあげたが、金太郎みたいに赤ら顔になって剛棒を咥え、陰毛の中に鼻先を突っこんでいる夏子の奉仕に次第に引きこまれていくのだった。
 「これを呑んだら目を覚ますんだぞ、お夏! また前の鼻息の荒い女に戻るんだ。そしたらいつかみたいに柔道の稽古をつけてコテンパンに苛めてやるから楽しみにしているよ! あっ、おお──」
 喉ちんこにあたるまで含みきり、バキュームよろしく吸い上げる彼女の攻撃に啄治は自失し、猛然と爆ぜだした。半分を喉奥に放出すると、もう半分は引き抜いて顔面に発射してやった。
 「キィーッ……」
 髪をひとつに束ね剥き卵のようにツルツルした夏子の顔に濃厚な臭気を持った啄治の精子が噴きかかった。その瞬間、夏子はオメキをあげてひっ繰りかえり身体中を痙攣させて悦びの絶頂に到達してしまったらしい。大股に開いた下肢のつけ根から湯気のたったマン汁がトロリと吐き出される。それは啄治の体液よりも臭みをもった分泌液であり、何よりも淫らな濁りをした雄を狂わせる色をしているのである。
 啄治は凄まじい欲情にかられ、夏子の肉体の上に覆いかぶさっていった。

 「すっかりおとなしくなったじゃないか」
 元刑事は正座して鼻面を差し出している女弁護士を満足げに眺めやりながらいった。心なしか青ざめた頬をした悠子は両眼を閉じ、朝のご挨拶の後の儀式に備えている。あれほど嫌悪し、泣いて嫌がっていた鼻輪も最近では抵抗感が薄れ、あっさりとぶら下げさせている。もちろん拒めば激しい懲らしめが待っているわけでそれを恐れての隷属であるわけだが、外界とまったく遮断された地下室での単調な奴隷生活は彼女の正常な判断力を麻痺させてしまったともいえるのだった。聡明な頭脳を思った悠子にしてもたとえば戦前や戦後すぐにみられた冤罪事件の温床となった代用監獄の如き状況に放りこまれれば、無実の罪を自白していった容疑者たちと同様、催眠術にかかったように管理者の思うままとなってしまうのである。頭ごなしに罵倒され、性的陵辱をくわえられ、笑止千万な無意味な規則に従わされる。排泄や睡眠も管理され、一日中、大時代的な男尊女卑思想の教育を反復される。それが続けば頭がボォーッとし、『考える』ことすら忘れてしまったような感じなのだ。もし悠子が廃人一歩手前の常軌を持ちこたえているとすれば、それはお腹の子供に対する母親としての義務感や責任感であろうが、それすら人間性を嘲笑するかのような鼻輪をつけられて暮らす身にとっては、まったく無駄なものではないかと、ふと自暴自棄になるのである。
 しかも一日一日とお腹は巨きくなっていき、いつ陣痛が起きてもおかしくない今となっては悪魔たちには厭でも依存しなければならないのである。いよいよ悠子は頭を下げ、お尻を振って隷従を誓わなければならないのであった。


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