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  便所コオロギとガス抜き

 北野総合病院、院長室。ソファに坐ってカルテを捲っている北野伊知郎は、いつものような白衣姿ではなかった。こざっぱりした、かといってフランクになりすぎないように気を配ったファッション、その辺の平衡感覚は北野の得意とするところだ。今日から出掛けるN県への二泊三日の治療旅行を引率する医師としてはこんなものだろう。
 北野はツアー参加者のカルテを見ながらクククと笑いを堪えることが出来ない。最初のカルテは深町響子、以前、この病院に勤めていた外科医、深町友之の妻だ。深町は何かと北野の経営方針に楯突き、危うくサイドビジネスの件まで嗅ぎつきそうになった憎っくき男で、ただ辞めさせるだけでは腹の虫が収まらず、女房の響子を陥弄したのだった。響子当時二十六歳。だれもが羨むような美貌を誇っていた。医者の妻、それも北野が夫のカタキであるだけに、攻略は難航を極めたが、あらゆる手段を講じて、ついに手中にする事が出来た。最初は激しく抵抗した響子であったが、二年たった今ではすっかり高級人妻娼婦として北野の軍門に下っている。
 もう一人は、ある市の市議会議員の娘、木村みどり。某有名私立大に通うお嬢様タイプの現役女子大生なのだが、どうしてどうして、市民運動に身を投じ、デモにまで参加する勇ましさだった。こちらはその市に北野病院が進出する際に、反対派の木村への揺さ振りと賛成派議員に差し出す貢ぎ物とを兼ねて、手に入れた。元全共闘の闘士と偽って近付き、セックスで骨抜きにした揚げ句、薬漬けというパターンだ。もちろん、薬といっても麻薬というよりは催淫薬に近い代物である。
 この、深町響子と木村みどりは、『治療』などすでに必要がないほど性奴に成り下がっている、いわばサクラであって、あくまで新たな獲物を捕えるための生き餌だった。
 新たな獲物、最後のカルテは言うまでもなく、イボンヌ梨田である。イボンヌが北野のところに電話を掛けてきたのは一昨日の晩であった。以前には考えられないような生彩のない憔悴しきった声で、ツアーへの参加を申し込んできたのである。それはもう哀願に近かった。
 (へへへ、とうとう喰いついてきやがった。思ったよりも早かったか。いや、何せあの薬、定量の倍どころか、三倍出しておいたのだから、当然か。日本の女だったら、とっくに救急車で運ばれてるところだろう。どんな顔して来るか見物だぜ。貞淑ヅラして手を焼かせやがって、その分たっぷりと……)
 北野はカルテに貼り付けられたイボンヌの写真、正面からの教養に満ちた顔のアップとグラマラスな等身大の写真を見ながら、淫らな空想を膨らませ、股間を熱くする。
 と、デスクの上のインターフォンが鳴った。
 「院長、バスの用意が出来ました」
 ツアーに同行する佐々江姉妹のどちらかの声だ。佐々江姉妹は一卵性双生児で、北野は今だに声だけでは区別が出来ない。姉はイネ、妹はヨネという。井上銀子の先輩格にあたる狂暴女子プロレスラーだった。銀子は姉妹の紹介でKK教団に『就職』出来たのだ。北野たちとの付き合いは古く、北野病院が総合病院になる以前の精神科だけの単科病院だった頃に、女性患者用の看護人として雇ったのだ。かれこれもう二十年近く北野の下で働いている。今では医者でも看護婦でもないのに我がもの顔で病院を闊歩するとともに、院内の不穏な空気を探るCIAとしても、なくてはならない腹心となっていた。
 「で、みんな集まったのかな」
 「ええ、響子とみどりはもう来ています」
 インターフォンを切ると北野は時計を見た。出発予定の時刻にはまだ間があったが、景気づけに、響子とみどりを早々呼び寄せ、少々、汗でも掻いておこうかと思ったのだ。
 モスグリーンのどこにでもあるマイクロバス。運転席にはすでにイネが坐っていた。ひっつめの髪。白い半袖のスポーツシャツにジャージのズボン。もうすぐ四十代半ばというのに、アスレチックトレーニングを欠かさない身体は筋骨隆々というところだ。
 「お早よう」
 上がっていくと、ありふれた外見とは違い、内装は豪奢を極めていた。絨毯を敷き詰めた床。三人掛けのゆったりとしたシートが数個あるだけの広々とした車内。後部にはホームバーもついている。もちろん簡易トイレ、テレビ、ビデオ、カラオケ何でも揃っていた。ちょっとしたクルーザーの船内といった趣である。
 北野は中央のシートの三人の女たちに目を細めた。真ん中にどっかり陣取っているのはヨネだ。イネとまったく同じ服装、身体つきである。半袖から伸びたツチノコのように太い腕が、両脇の女二人の首から頬に掛けて巻き付けられ、ぐりぐりと締め上げている。向って左が深町響子。今日は薄紫の着物に赤系統の帯を若奥様風に決めている。豊かな髪をアップにしているため色の白さが余計に目立つ。右が木村みどり。こちらは長いストレートの髪、ピチピチ弾けるような小麦色の肌と、響子と対照をなす現代的なギャルだが、健康さと賢さを兼ね備えた、この娘本来の魅力とは相容れない、少し際どいファッションをしていた。ブルーのブラウスのボタンが二つくらい外れ、胸元が深く切れ込んでいる。スカートはタイトで腰の線が強調され、太腿もあらわなミニときている。
 そんな二人が頭を突き合わせんばかりにヨネの腕の中でもがいているのだ。
 「ほほー」
 と満足気に笑いながら、北野は女たちと向い合わせに回転させたシートに腰をおろす。
 「オラ、院長先生に挨拶しないかっ」
 響子もみどりもヨネの万力のような二の腕と、岩盤のようにかたい胸板にギリギリ挟まれて、挨拶どころではない。顔を苦痛に歪め、屈辱に呻いている。とくに色白の響子は首まで赤く染めている。最初にネを上げたのはみどりの方だった。
 「うう、痛いわ。もう許してっ」
 「なにぃっ、痛いだと。気持ちがいいの間違いだろう。えっ、みどり」
 ヨネの野太い声が響き渡り、腕が狂暴にローリングする。みどりの顔がまるで大波に弄ばれる果物のように激しく揺れた。
 「ヒィーッ」
 「みどり、おまえ、最近また反抗的になってきたようだね。もう一度性根を叩き治してやろうかい」
 「北野さん」初めて響子が乱れる息に喘ぎながら口を開いた。「みどりちゃんを許して上げて。私より三十分も早く来て、それからずっと……」
 いちいちうるさいんだよと、ヨネは腕に力を入れ響子を泣かせる。北野はニヤニヤしながらみどりの剥き出た膝小僧に手を這わせ、いやらしく撫で擦った。
 「みどり、響子もああ言ってることだし、早いとこ謝ったらどうだい。ヨネを本当に怒らせたらどうなるか、みどりもよく知っているじゃないか」
 みどりの悲鳴が一瞬止んだ。かわりに力のない嗚咽が漏れてくる。悪魔たちの手に落ちて半年間、自分を襲った想像を絶する凌辱の連続が、みどりの頭の中を早回しで去来する。駄目だ。いくら抵抗しても最後には屈伏させられてしまう。反発すればするほど悪魔たちは嬉々として卑劣な行為を仕掛けてくる。とても一人の女がかなう相手ではないのだ。
 「どうなんだよ。気持ちいいんだろう」
 「は、はい…キ、モチ、いいです…」
 声が小さいと何度も何度も言わされた。
 「フフ、まあそのへんで許してやりなさい」
 ヨネはようやく腕の力を抜いた。解放された二人はハアハアと喘ぎながらシートの背に身体をあずける。ヨネは運転席のイネのところへドライビングスケジュールを打ち合せに行った。
 北野はヨネの坐っていた場所に移動する。化粧と汗の匂いがいり交じった女の香りが心地いい。最初はみどりの肩を抱いてやる。艶やかにのびた髪を掻きあげる余裕もなく、啜り泣くみどり。顎に手をやり自分の方を向かせ、小麦色の健康的な肌をした、どちらかといえばしもぶくれの顔にかかった髪をよけてやる。
 「痛かったのか、みどり」
 赤く充血した瞳を北野に向けて、力なく頷くみどりだ。初めて会った頃には、キラキラと希望に輝いて、社会改革への溢れる思いを熱っぽく語り掛けてきた、あの黒目がちで印象的な瞳とは似てもにつかない。ポニーテールをなびかせながら、どんな男よりも活発に運動の先頭にたっていた木村みどりは、自分を淫獄に幽閉した男の胸に顔を埋め、惨めに泣くオダリスクに堕とされている。そんなみどりの転落ぶりを思うと、北野のサディストとしての血が沸騰し始め、もっといじめてやりたくなる。
 「それはそうと、この間はどうだった? ん」
 ギクリとなるみどり。北野の目をみつめその真意を読み取り、唇を噛む。
 「どうした、そんな恐い顔をして。私はただ、東専務がどんな風にお前を可愛がってくれたか、それが聞きたいだけなのだ」
 大企業の専務である東は、ある疑獄事件の中心人物と目され、連日マスコミの報道を賑わせていたことがある。結局、どんな手を使ったのか起訴を免れたのだが、みどりも真相究明を訴えてデモをしたことがあった。よりによってその東が客となり、屈辱の奉仕を強いられたのが、つい三日前だ。
 みどりの表情を楽しみながら、
 「お前が忘れたというなら、思い出させてあげよう」
 と、北野はバスの中のあらゆる物をコントロールできるというリモコンのスイッチを入れた。天井の一部が割れ、薄型のテレビ画面が下りてくる。もう一度操作すると、ビデオが回り始めた。みどりがひっと喉を鳴らす。画面には四十畳ほどのぶっ通しの、大宴会でも開けそうな和室が映し出されていた。妙に寒々としているのは部屋に置かれているのが、奥に見えるドぎつい赤の掛け布団の寝具一式だけだからであろう。
 床の間を背にしてでっぷりと太った和服の男が、煙草を吹かしながら横柄に胡坐をかいて坐っている。東専務だ。その前にはみどりが額を青畳にこすり付けるように平伏している。身につけているのは白い褌一つという若い娘には耐えれないような姿である。そんな姿勢を三十分以上強制され続けたのだ。
 「あの褌、専務の履いてきたやつなんだってな」
 北野がみどりの髪を撫でながらチクチクとイビる。
 ……東は傍らの膳に盛られた小料理をしばらくつつき、猪口に酒をついで舐めるように飲み干した。
 (木村みどり)と東はダミ声を、這いつくばったみどりの小麦色の背中に浴びせる。
 (少しは反省しておるのか。自分のしでかしたことの重大さを。お前はな。学生という半人前の分際で、無実の人間を罪に陥れる片棒を担いでいたんだぞ。そのおかげでこの私の人生は危うくメチャクチャになるところだったのだ。いいや。実際、私の孫などは学校へもいけない状況に追い込まれたのだ。年端も行かぬ子供につけられた傷は深いぞ、木村みどり。それをお前はどう償おうというのだ。裸になったくらいでは、到底済むものではない。なんとか言ってみぃ。あーん)
 東は陰湿な自分の口調に酔うタイプのサディストだった。もちろん、みどりがデモに参加したのは事実だったが、それは特定の個人攻撃を意図したものではなく、汚職の構造性を追及したものだった。しかし肉奴隷に改造されてしまったみどりには、こんな理不尽な言い掛りにも反発することは許されない。みどりは口惜しさに震える声で覚えこまされていた口上を述べ始める。
 (私、木村みどりは若輩のいたりとはいえ、とり返しのつかない傷を東様、並びにご家族の皆々様に負わせたことを深く反省し、どのようなお咎めでも甘んじて受ける所存で……)
 (当たり前だ。まったく若い者を甘やかしておくと、ろくなことにならん。お前のような不平分子を飼っておく場所など、この日本の国にはないのだぞ。将来、ゲリラにでもなるつもりだったのだろう。その前に私に会えて、日本のためにもお前のためにもよかったのだ、木村みどり、顔を上げてみろっ)
 みどりは屈辱に泣きながら顔を上げ、東を見上げる。
 (けっ、なんだその黒くて汚い顔は。ニッポン女性の美しさは昔から抜けるような雪肌と決まっておる。やっぱりお前は非国民だな。ようし、それではこの私が一肌脱いで、お前の顔を白くしてやろう。有り難く思え、木村みどり)
 東は興奮して立ち上がり、着物の帯を解いた。股間にはシミだらけの太鼓腹を押し上げんばかりにそそりたった巨大なペニスが透明な涎を垂らしていた……。
 「もう消して下さいっ」
 みどりは血を吐くように叫んだ。
 「駄目だ。よく見るんだ。復習を怠っては響子のようないい娼婦にはなれんぞ」
 北野はみどりのしなやかな髪を乱暴に鷲掴みにして画面の方に向ける。こうして事ある毎に自分が奴隷であることを思い知らせ、反抗する気力を奪っていくのだ。
 「ほら、言わんこっちゃない。もう間違えてるじゃないか。棹にいく前に丹念に袋を舐めるんだっろう」
 「…専務に平手打ちを食らわせられなきゃ、口を開けられんのか。みどり。強姦されてるわけではないのだ。お前は売春婦なのだぞ」
 「あんなしゃぶり方じゃ男を喜ばすことは出来んぞ。ほら見ろ。専務が業を煮やして、お前の頭を揺さ振りだしたじゃないか。落第だぞ、みどり」
 画面では東がみどりの顔を力任せに前後させている。まるでビデオを早回しにしたような錯覚に陥らせるスピードだ。丸太の如く太くなり、血管がみみずのように浮き出たグロテスクなペニスが出入りするたびに、みどりの色を失った唇は捲れ込み、捲れ上がる。
 「ひゃー」北野が呆れたように喚声を上げた。東がみどりの顔面に向ってたっぷりと思いのたけを浴びせかけたのだ。
 「このオヤジ、すごい量だな」
 たしかに東のザーメンの量はすさまじく、みどりの顔一面を覆い尽くしコーティングしてしまった。みどりはその瞬間に失神したらしくバッタリと転がった。
 (うりゃっ、男の物を清めんと、自分だけ気をやるとは何事じゃ、ちっとも反省しとらんな、木村みどり。まだまだ許さんぞ)
 場面が替わり、寝具の上。素裸の東の膝の上に大股を開き、カメラの方を向かされて乗せ上げられているみどり。東の巨根でヴァギナを田楽刺しにされている無残な姿が一目瞭然だ。何度もイカされて、しかもまだ許さない東のタフさにねじ伏せられた感のあるみどりの表情には、すでに快美の余韻も苦痛の影も見られず、ただただ疲労だけが漂っている。自分の身体を支えるために東の首に巻き付けている左腕にも力がない。時折、ううんと呻いて長い髪を生気なく振るくらいだ。みどりの腋の下から顔を出している東はしかしネチネチと言葉責めをやめない。
 (木村みどり、どうだ、少しはこたえたか。ん? デモしてた時の威勢の良さはどこにいったんだ。ええ? さ、何回、気をヤったのか言ってみろ。勘定させただろう)
 (は…、八回です…。少し休ませて…)
 (何を甘えておるか。私はまだ一度も果ててないのだぞ。ふん、黒豚みたいに汚い顔をしおって、しかもこの乳の貧弱さはなんだ。おまけに腋は臭い、×××は濡れ雑巾のようにジュクジュク不潔ときておる。こんな便所コオロギみたいな身体で私と床を一つにするなど、恐れおおいと思わんか。お前がセックスしか能がないというんで、こうして反吐が出そうなのを我慢して、肌を合わせてやっているというのに、休ませてだと。ならぬ。あと十回、イクまではこのままだっ)
 (ヒィー)
 東はみどりの弱々しく波打っている腹に両腕を回し、上下運動のピッチを上げた。杭のようにみどりの股倉を貫いている金棒に新たな生汁がこびりついてくる。針金のような東の剛毛がみどりの柔肌を突き刺す。恥骨と恥骨がぶつかりあい、みどりの顔がガクガク揺れた。
 (私が根性を叩き治してやる。お国のためになる女に造り変えてくれる。有り難く思えっ、このゴクつぶし!)
 東が飛鳥のように叫び、ガンガン突き上げた。言葉にならない嬌声を発し、みどりが果てようとした時、ビデオが停止した。
 「お願いっ、これ以上は堪忍して」
 耐え切れなくなったみどりが北野からリモコンを奪い、消したのだ。
 「ほう、主人に逆らったペットにはお仕置きが待っているんだよ、みどり」
 「あなたたちはいったい、いつまで、どこまで、私を辱めれば気が済むのっ」
 みどりの瞳には久々の憎悪が燃えていた。みどりの生来の気の強さが、日をおいた、冷静な目に見せられた東と自分の狂態によって、蒸し返ったようだ。やれやれもう一度やり直しだな。北野はしかしさほど落胆の色もない。調教の愉悦を二度味わえる女などそういるものではない。北野はゆっくりと上着のポケットから、注射器ケースと細いゴム紐を取り出した。
 「いやあー」
 「ヨネ、みどりを押さえろ」
 恐怖に駆られて悲鳴を上げたみどりは逃げだそうとして立ち上がったが、後からきたヨネに羽外締めされる。ソファに坐らされたみどりは観念したのか、抵抗を止めた。しかしキっと北野を睨みつけ、
 「負けないわ。必ず、必ずあなたたちに復讐してやる」
 噛みつかんばかりの形相を見せるみどりをヨネが笑う。
 「強がったって、あと何分もしないうちに、股の間、ガリガリ掻き毟るくせによ」
 ブラウスの袖が捲られ、細い腕にゴム紐が巻きついた。アンプルを切り、注射器でウグイス色の液体を吸い上げる。
 この薬は『キャッシュ』といって強力な催淫効果を発揮するすると共に、これを使われた女性は男性ホルモンを発するすべての男の、どんな命令にも従順に服するようになり、常習すると廃人同様のロボットが出来上がるという恐ろしい薬だ。ベトナム戦争中に自白剤として開発された薬を改良した代物で、ある南米の秘密警察が反政府ゲリラに投与してその効果の絶大さを臨床した。当然ブラックマーケット以外では手に入らず、北野はある伝手から時々入手し、ここぞという場合にのみ使っている。響子もみどりも一度ならずそれを体験させられていて、恐ろしさを身に刻んでいた。
 静脈への注射を終え、悪魔たちに恨み辛みを口走っていたみどりの口調が次第に緩慢になっていき、身体の熱さを訴えるものに変化していくのをたしかめると、北野は今度は響子に触手をのばした。まだ奴隷になって日の浅いみどりとは違い、完全な娼婦として、この二年間、過ごしてきた響子に、北野は何の手加減もせずに襲いかかる。襟元から手をこじ入れ、襦袢の中に息ずく、形はいいが小ぶりなみどりのものとは、比べものにならない豊満な乳房を掴み、荒々しく揉み込んだ。
 「どうだ響子、待ってたんだろう。みどりがなぶられるのを見て、アソコ濡らしているんじゃないのかい」
 北野は着物の裾を魚の腹でも開くように肌けた。赤い襦袢の中から白い足袋を付けただけのすっと伸びた二本の脚があらわになる。それを割り裂くように、片方の脚を自分の膝の上に乗せ上げた。ふくらはぎから脂肪のほどよくのった太腿を撫で擦る。パンティの履いていない腰巻き一つの股間に手を入れる。人間というより肉の塊として玩ぶ、何のてらいのない手つきだ。サラサラした織毛に指を絡め、油断させておいて一気に人差し指と中指を肉の襞に突き刺した。それまで目を柔らかくつぶり、紅唇を半開きにして北野の行為に抗いさえ示さなかった響子が、初めて、うっと短く呻いた。
 「なんだ、やっぱりヌルヌルじゃないか。みどりに悪いとは思わんのか」
 北野は指の腹で、潤んだ内壁を粘土でもほぐすかのように丹念に押し込みながら、腟の構造を確認する。
 「響子も最初はみどりみたいによく暴れたもんだがな、覚えてるか」
 「言わないで……」
 乳房を揉んでいた手を顔にまわし、ディープキスを迫る。逃げる唇をとらえ、舌を吸い上げる。泡立った唾液をたっぷりと口移した。親指が豆状のクリトリスをまるで百円ライターでも点けるように無造作に嬲る。響子は北野の唇を振り解いて切なそうにヨガリ声を上げた。
 「最初の頃に比べたらここも膨らんだなあ、響子」
 「うそ、です……」
 「いいや、最初に比べたらここも、オ×××も、オッパイも、お尻も、どこもかしこもいやらしく色っぽくなった。やっぱり女という生きものは、いろんな男の精を浴びて成熟していくんだ。これが深町のような青ビョウタンの貧弱な男一人の身体だったらこうはいかなかっただろう。感謝しろ」
 形のいい耳を甘噛みし、息を吹き掛けてやる。柳眉を寄せ、下唇を噛む。昂ぶる感情を必死に自分の内に押し留め男に気取られないようにする響子独特の表情。北野は体勢を立て直すとズボンを脱ぎ、ブリーフを下ろした。東のそれよりもさらに一回り大きな一物が姿を現した。しかしそれでも中くらいの勃起度なのを響子はみとめ、自分が北野の『信頼』を勝ち得ていることを再確認した……。
 北野が響子のように完全に服従したと思っている娼婦などに、本気で接する男でないことを、響子は多くの目撃例から感じている。せいぜい今日のように、新しく入る獲物と余裕を持って対戦したいというような時に、いわばガス抜き用のはけ口として扱う程度だ。自分がそこまで堕とされたという惨めさと、それでいい、それでいいのだという確信とが交錯する。
 (あなた、もう少しよ。もう少し響子を見逃しておいて。今に、今にきっと……、)
 響子は北野に対する復讐の決意を、あわてて頭の中から追い出した。北野の前で微かでもそんなことを思い描いていると、精神科医特有の嗅覚に察知され、告白するまで嬲られ続けるであろう。いや、そんなことが発覚したら、今度こそ『キャッシュ』かなにかで廃人にされてしまうかもしれない。夫との希望と愛に満ちた生活を取り戻すためにも、もう失敗は許されなかった。より効果的で決定的なダメージを悪魔たちに与えるために、響子は最初の頃のような激しい抵抗はやめたのだ。単純な反発や逃避は、先程のみどりのように力で押さえ込まれてしまう。悪魔たちの『信頼』を得、油断を誘い、時期が来るのを待つ。それまでは心も身体も肉奴隷になりきって奉仕する、血を吐くような決意を響子はしていたのだ。この意識がなかったら、響子はとっくに命を断っていたことだろう。
 ……響子を見下ろすように仁王立ちになった北野がピンク色の腰巻きを剥ぎ取った。
 「あばずれっ、喜んで頂戴しろ」


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