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  安淫売 b

 チンピラどもは待ちくたびれ、花札に興じるのも飽きて、パチンコに出ていく者、エロ雑誌を読み耽る者、ひと風呂浴びてくる者、などなど時間つぶしに余念がない。
 隣の部屋からは紀夫のドスの効いた罵倒が頻繁に聴こえてくる。真弓はどんな辛い目にあっているのか、高順や恭順のときとは比較にならないほど大きな悲鳴や反発の声をあげつづけていた。もっとも、肉闘も中盤戦を過ぎた頃になると、紀夫の声は丸くなり、優しく慰めるような言葉が目立ちはじめ、真弓のほうも火照り気味の喘ぎを喉の奥にくぐもらせはじめているようであったのだ。
 どうやらあれほどのあぶな絵を見舞われたくせに、二十九歳の女弁護士の肉体は紀夫の強靭な体力と経験豊富なテクニックに敗北を喫し、柔軟に蕩けだしているらしかった。
 とうとう甘美な淫技に屈して、こらえきれずにアクメの絶頂を告げる咆哮があがった。ゴロゴロとたむろしていた相原、井田、西、菅沼らは跳ね起き、扉にコソコソと集まって耳をすました。
 『……だ、だめッ……あ、ああ、あッ……』
 これがヨガリ声でなくて何だろう。全員が生唾を呑み込んだ。姿を、表情を、この目にしたいところであった。キリリとした知性派の美女が汚辱の嵐の果てに見せる媚態は、きっと腹の底を熱くする被虐的な図柄であろう。
 『もっと緊めろっ、真弓、もっともっとだっ。食い千切るつもりで精神を集中しろ!』
 『あーン……死、死んじゃう……たまらないッ』
 あの阿女、完全に紀夫専務に御されている──四人は顔を見合わせながら頷いた。
 断末魔が真弓に襲来したようだ。鬩ぎあっていた正義の意志と獣の欲情の戦いに最後の決着がつき、肉棒という無敵の加勢を受けた欲情が脳の細胞を焼き尽くした。
 およそ彼女のものとは思えない生々しい声が、部屋中、いや、屋敷全体に響くほどに轟いた。驚いて別室で休んでいた高順と恭順が飛び込んできたくらいだ。
 「専務がイカセちまったようですよ」相原は振り向いて報告した。
 「ほう。やっぱり紀夫が最初のボーリングに成功したか」高順がニタニタ笑った。
 「あの女、セックスの良さをじゅうぶんに知っているからな。そういう女は抵抗できませんよ。専務の荒技にはねえ」
 高順とともに恭順も扉の近くに寄っていき、なかの様子にきき耳をたてた。
 一戦が終了して、二人はドロドロに溶け合っていた官能の心身をそれぞれの人格のもとに戻しており、真弓はかすかに啜り泣きをもらし、それに因果を含める紀夫の言葉がネチネチとつづいていた。
 『泣くな。悪くなかったぜ。なかなかいい締まりだったし。うーん、そうだなあ、俺が今まで抱いたなかでは、まず八番か、九番目くらいにはなるだろうよ』
 慰めるというより、嘲っている紀夫。男たちはプッと吹き出した。
 『なぜ、ベストワンじゃないかというと、アノ瞬間の顔がちょっとはしたなさすぎるんだな。あんな顔、ソープの女だってなかなかしないよ。それに顔面が紅潮するタイプだから、なんだか、お猿とファックしてるみたいな気分になってくるんだ。わかるか?』
 真弓の呻き声。おおかたホカホカにシコっている胸乳をわしづかみでもされたのだろう。
 『……ああ……もう、赦して……』ハスキーボイスが降参している。
 『バーカ、せっかく心が通いあったんじゃないか。あと二回くらいは腰を振りあうのが恋人同士のエチケットってもんだろ。それにこの程度じゃ、傷が入った小指に申し訳がたたねえからな──ホレ、真弓、唇を突きだせ』
 『……あむむ……いや、もういやよ……ンン……』
 口を貪欲に吸う音。荒い息づかい。肉と肉のぶつかりあう響き……
 「チッ、紀夫め。このぶんでは当分、手放しそうにないな」
 呆れたように笑いながら恭順社長は腰をあげた。
 『あぅッ……あ、あン……』
 早くも昂ぶった肉の窮状を訴えるような真弓の鼻息に、チンピラたちの目は待ち焦がれるジリジリとした焦燥で充血した。
 紀夫が勝利の凱旋よろしく、嬉々として戻ってきたのはさらに二時間もたってからだった。長くのばした縄を荒々しく引っ張って白い肉塊と化した女体をともなっている。
 真弓は立って歩くことができず、戒められた上体を丸めるように前に倒し、あごや額を床にこすりつけ、膝をピンク色にしていざり這っているのだった。その緩慢な運動でさえ、今にも途切れてしまいそうなほど、肉体の疲労は極限までたまっているようだ。黒髪はもともとウェービーなわけだが、汗をたっぷりとふくんで一層チリチリとなり、ざっくりと顔の前にかぶさっていた。後手に緊縛された腕は二の腕から手首のところまで薄紫色に痛々しく変色している。白魚の指は、力なく開きっぱなし。自慢の丸いお尻にはスパンキングでもされたのか、手のひらのかたちが赤くシミこんでさえいる。尻の山のぶつかりあっているぴっちりとした黒い翳りの底にヌッタリと垂れたようにふくらんでいる毛饅頭の、蹂躙され尽くされた生々しいシルエットがあったが、さしものチンピラたちをも辟易とさせる様相を呈していた。
 部屋の中央までくると、真弓は精根尽きたように頬を畳にぺったりとつけて大きく脇腹を起伏させた。
 一方、紀夫は筋骨隆々の肉体を汗で光らせていたが、足下でグロッキーになっている女弁護士の精力を吸い取ったが如く晴れ晴れとし、ますます血気の充実ぶりを誇示しているようだった。
 彼は真弓の傍らにしゃがみこみ、乱れかかっている黒髪を掻きあげて表情をさらした。血の気を失った腫れぼったい美貌が晒されると、皆、興味深そうに覗き込んだ。
 「ありゃりゃ、目元にこんなに雀斑があったっけ?」
 「ひどく歳をとった感じだな」
 「でも綺麗だよ。睫毛が慄えているところなんか、やっぱり捨てがたい味があるね」
 「うん、俺もどっちかというと厚化粧で作った顔よりも、こういうほうがゾクゾクするんだよなあ」
 好きなことを口にする男たち。しかし真弓にはそれに反発する気力も起こらなかった。
 「えーと、次はそれじゃ、誰が旦那様になるんだ?」
 紀夫は真弓の黒髪をうさぎの耳でもつかむように束ね握って、顔をもちあげた。
 「むむ……」真弓の表情がゆがむ。
 「なかなかの肉をしてるぜ。それに数の子天井だし。お前たちで太刀打ちできるかな」
 畳につぶれていた乳ぶさに手をのばし、縄目に容赦なく虐められているそれを弄びながら彼らを見回す。
 縄尻を受け取ったのは相原。菅沼以外の三人は同期生だったが、ジャンケンで勝ちあがったのだ。
 「さーて、先生。お手やわらかに頼みますよ。専務と違って私のは華奢にできてますからね」
 笑いを誘いながら真弓の湿った肩をゆさぶる。
 「……お願い……少し……少し休ませて……」
 息を吹き返した真弓が呻くように懇願した。
 「大丈夫だ。こっちはじゅうぶん休息を取ってるからさ」
 見当違いの答えをしてさらに周囲を笑わせると、相原は縄尻を短くもって、強引に隣の部屋へひきずっていこうとする。真弓はもはや這えずに畳のうえを滑るにまかせるしかない。縄がキリキリと肌に食い込んだ。
 「……あーむ……た、助けて……」
 誰に向かってそう言っているのか、自分でもわからなかっただろう。
 爪先を必死に内側に曲げて畳の目をつかもうと無駄な努力をしている様がいじらしくも哀感がともなっていた。またまたおいてきぼりを食わされたチンピラたちの目に生っ白い裸身のなかで色鮮やかに密生している黒々とした陰毛の色を焼きつけながら、真弓はムッと淫臭のこもる巣窟へ吸いこまれていった。
 会長、社長、専務はとうに自室へ引き上げていた。割り箸の突っ込まれたカップ麺の空きがらと吸い殻の山となったアルミの灰皿などが部屋中に散乱している。待っている三人はゴロゴロところがって仮眠を取っていた。
 時計の針は深夜三時を回っている。これでは最後の菅沼まで順番がたどりつく頃には夕方近くになるのではないだろうか。とにかく一人ひとりが見せる中澤真弓への執着ぶりは常軌を逸するものが感じられる。
 つい三十分前に一度、相原が部屋から出てきたのだが、それは戦闘終了を告げるものではなかった。素っ裸の相原は真弓を抱っこしていた。それも大人が子供におしっこをさせるように背後から太腿の裏側をとってM字開脚の格好のままである。
 『先生、おしっこがしたくなったんだと』
 まさに、小便を訴えた虜囚に恥の上塗りをさせるかのような行動だったわけだ。全員がゾロゾロと二人の後に突き従ったのは言うまでもない。真弓は放心状態から辛うじて抜け出て晒し者にされることを拒んだが、生理現象には勝てずに放尿を披露するハメになった。
 『さあ、済ませるものを済ませたら、職場復帰、職場復帰。また潮吹きを見せてくださいよ、先生──』
 女体を胸に抱っこしたまま、相原は小走りに部屋に戻っていったのだ。
 相原がもう一滴も精液が出ないほど放出を遂げて、満足して意気揚揚と引き上げてきたとき、真弓は無理矢理、立たされて歩かされていた。その歩きかたの不自然さはただ肉体の消耗では片付けられないものがあったので、眠い目をこすっていたチンピラたちもあれ?とその手を止めたのだった。通常、全裸に剥かれ、羞恥にやかれている女が引き回されるときには、太腿をぴったり閉じあわせ、膝をこすりあわせるようにして、ヨロヨロ静々と歩くわけだし、それまでの真弓もそうだった。だが、今の彼女はなぜかガニ股歩きだった。腰を中腰にして、膝の内側を見せるように外股となっている。
 彼女の股間に何かが取り付けられているのを発見して、井田が尋ねた。
 「なんだ、そりゃ?」
 「へへへ、先生、よーく見せてやりな」
 「いやよ」
 「いいから、早く」
 撫でまわされていた尻が小気味よく鳴った。青ざめた真弓の顔から自意識が喪失していく。
 突き出された股間に何かがあてがわれているのだ。そのため、上は陰毛の半分が、下は媚肉のすべてまでが隠されるようになっている。
 「ほほう、あれじゃないの。氷枕の小さいやつ。名前はえーと、アイスノンとか言ったっけ」
 「ご名答。アイシングしてるんだ。あんまりスコスコやりすぎたんで、先生のここ、腫れあがっちゃったのよ。冷やさないと、とてもじゃないけど、次はやれないからね」
 爆笑が起こる。美人弁護士がオ×××のやりすぎてふんどしのようにアイスノンを付けられているんだから、大笑いだ。
 真弓はからかわれ、蔑まされながら、何度も部屋を引き回された。
 屈辱感とは逆に、火照った局部を和らげるような冷たい感触はふと陶然とするほどの心地よさをもたらしているのは、口惜しいが事実であった。
 井田が彼女を連れて部屋に入ってから、専務がきて差し入れをしていった。特上の寿司が五人前である。なにしろ、もう今日にはシャバとは当分オサラバになるのだから、このくらいの贅沢はかまわないのだった。
 「真弓の分もあるからな。あいつだって少しは栄養を取らないと、最後までもたないぜ」
 すっかり女弁護士の情夫気取りの紀夫は膳のひとつをもって扉をあけた。
 「悪いがちょっと邪魔するぜ……」
 しかし二人は来客に気がつかないくらいの佳境に突入しているのだった。真弓の身体は二つ折りにされ、背中はセンベイ布団から離れ、高々と尻をもたげ淫口を天井へ向けている。全裸の井田──彼の背には毒々しい刺青が彫られていた──がそのうえに跨がり、力の漲った青竜刀を上から下へ向けてズブリと刺し貫いて、残虐なピッチでピストン運動をしているのだ。絡み合う陰毛のなかから出没を繰り返すそれと、そのたびに変化する真弓の媚肉には、己れらの分泌した粘液が白く付着していた。
 「う……うう……うン……あむ……」
 夢遊病者のような真弓の鼻声。彼女は後手縛りを解かれ、ただ手首を縛られた手を頭のうえに置いていた。解放された乳ぶさは本来のミルク色を取り戻してはいたものの、乳肌にはギザギザの戒めの痕が残っている。
 「あ、これは専務」
 ようやく井田が気がついた。
 「そのまま、そのまま。かまわないからつづけてくれ」
 「あんまり苦しがるんで胸の縄はほどいてやりましたよ。そうしたらまた一段と激しく悶えるようになりましてね。相原がアイシングしてくれたおかげで、ここの具合もすごくよくって。堪能してまさあ」
 「いいぞ。思う存分、姦りまくりなさい。そんないい女、ひょっとしたら、もう一生味わえないかもしれんもんなあ」
 寿司の膳を傍らに置いた。
 「真弓、ひとつ、食べてみるか。腹ペコだろ?」


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