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でわまが収録作品「蟻女」
WEB版同人誌「浪漫活劇文庫」のために書かれた「変態SF小説」

今回、新たに増補された部分はなし。挿し絵もない。

さて「浪漫活劇文庫」とは何か? 当時の宣伝ページが発見された。【こちら】


 本文より.............................................

  1

 深い地底から掘り起こされた黒土をおもわせる、六脚式歩行器の肌が艶光りしている。ブロンズ製だから倉庫から運びだすのにも大の男が二人掛かりで汗びっしょりだ。
 五体あるうち、一体はすでにトレーニングルームへ持ちこまれているが、しかしそれでも目の前に横列して並ぶ四体を眺めていると、その不気味な存在感に圧倒される。高級SMクラブの壁にかけられた皮鞭やレザー製の拘束具にだって毒はあるだろうけれど、そんなもの、これに比べれば子供に腹下しをもたらす程度のものに決まっている。
 彼は硬く絞り切った布でボディを丁寧に拭いていく。
 女体を充填するシンク(受け皿)の底から三対の脚が生えていて、それで床に起立しているわけだ。シンクは女体凹凸の個性に合わせ柔軟に形を変えられる構造で、通常であれば幅約四十センチ、長さ約八十五センチ、深さ約三十センチほどに規格されていた。全体から受ける印象は中世の騎士の鎧を前半身と後半身に切り割り、前半身だけを倒した感じ。底浅い小型のユニットバスの浴槽、すなわちシンクである。
 脚はロングブーツのようであるけれども、よく見ると有蹄類のそれに似ているだろうか。三対を順番に前脚、中脚、後脚と呼んでいいなら、前脚が一番短く、最も長い後脚より十センチは足らないくらいである。つまりその上に乗っているシンクは床と平行ではなく、そのぶん前のめりになっているのである。
 女体は──もちろん全裸だが──両足を後脚へそれぞれ詰め入れたのち、腰を直角以上に折り曲げ、両手を前脚へくぐり入れるのである。顎の位置はレストにきちんと固定されるので、口から上の顔は飛びだすのだが、自由に動くのは不可能となる。
 横から眺めればシンクは身体をすべて包みこんではいない。背中は露出しているし肩甲骨の筋肉や臀肉などが蠢くのはじゅうぶん視野に捉えられよう。
 中脚は機械脚で電子制御されており、これに駆動軸で連結している前後の脚が精巧に連動することにより『歩み』が成立するのだ。だからといって女体がまるっきり身を任せていればいいと言うものではない。軽モーター付きのアシスト自転車を運転するよりは、明らかに能動的に体力を使わねばならないだろう。四肢の力の強弱、バランスのとり方、方向転換時の脚の配り方などは、トレーニングを通して身につけていかねばならない高技能と言える。
 すっかり磨き終えた四体の歩行器。
 さらに輝きを増して、柔らかな乳色の肉体を満載するのを待つかの如きであった。
 とりあえず仕事は一段落なので、トレーニングルームを見学してもいい約束だ。彼のボスはこの辺り、じつに物わかりがいい。
 すでにひとつの女体が搬入されているのだった。昨晩のことである。一日も経過しないうちにもうトレーニングの開始とはさすがに人でなしの所業である。
 全裸に剥かれるのも衝撃だろうが、この機械に詰めこまれると知った時の驚愕ときたらどれほどのものだろう。自分を誘拐した一味の素性に対する一晩がかりの推理は根底から覆されてしまったにちがいない。
 それに、もし、ほんのちょっと落ち着きを取り戻せば、女はこう考えるかもしれない。
 (何故この機械は四脚ではなく六脚なのだろうか)
 答えは意外と簡単である。信じるのが難しいだけだ。

 本文より.............................................


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