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でわまが収録作品「プレゼント」〜ブロンド弁護士、檻へ外伝より
マルチ・アングル方式(同一シーンの別視点)採用!


 本文より.............................................

アングルA

 私は中庭に面したデッキへと視線を向けた。お歴々がプールサイドに持ちだされたテーブルの回りに陣取っていた。映画『バットマン』のキャラクターにそれぞれ仮装して、プールで繰り広げられるバカ騒ぎに陽気な笑い声を飛ばしている。
 右に座っているのが無能な弁護士のエド・ローエン:『ペンギンマン』。
 その反対側にこの地区の保安官、有能なサディスト、デビッド・パターソン:『ジョーカー』。
 そして中央には我がキング・メーカー、ジョージ・スピルマン刑務所長:『トゥーフェイス』。
 彼らはようやく私の訪問に気づいたようだった。
 ローエン弁護士は驚き、そして怯えたような表情となり、パターソン保安官はますます冷静な笑みで口元をゆがめた。
 スピルマン所長は大袈裟な歓待の身ぶりをし、立ちあがって私を迎えた。
 「これはこれは意外なゲストの登場だ!」
 私の腕をもぎとるようにして握手する彼。
 「あら、スピルマン所長。招待状を出しておいて意外とは、おかしな話ではありませんこと?」
 トゥーフェイスは硫酸を浴びせられた側の頭に手をやって笑いだす。
 「いやはやまったくおっしゃる通り。しかしまさか、清廉潔白の人権調査官殿が、いつも悪魔の使徒と嫌悪する我らがパーティに本当にお越し頂けるとは思いもよらぬところですからな。さ、まあどうぞ、お掛けください。ポーター、何をしている。早くシャンパンをお持ちしなさい」
 私は肩を押され、強引に椅子をすすめられたが、それには嗤って従わなかった。
 「まさか」と私は皮肉っぽい微笑をつづけて言う。「大統領よりも謁見するのが難しいクライズヒルズの皇帝様のお誘いを受けて断る道理はないはずですわ。私のような下々の人間には滅多にないチャンスでございますから!」
 刑務所の査察どころか、面会さえノラリクラリと拒否し続けるこの胡散臭い刑務所長。笑顔であるのにかかわらず、おそらく私の眼光は敵意丸出しの鋭さになっていると思われる。
 硬直しかけた雰囲気に、エド・ローエンはなおさら竦みあがっているようだった。ペンギンの付け鼻が哀れさを誘う。もちろんデビット・パターソンの冷然とした顔つきに変化はない。
 スピルマンはにこやかに両手を広げ、ちっとも応えていない様子。森羅万象、何事も自己の欲望の糧にしていくタイプの悪党である。
 「グラント夫人におかれましては、今夜はとくに『念入りに』ご気分がお宜しいようでございますな。やはりクリスマスの夜も家族と離れてお仕事ができる幸福にエキサイトされていらっしゃるのでしょう。あなたのような女性にとって、それが何よりのキャリアになるのかもしれません。ご亭主やお子さまよりも、出世を愛していらっしゃるようですから!」
 私は怒りを抑えつつ彼にポケットの小箱を放り投げてやった。
 「爆弾ではありませんわ。スピルマン所長。世間ではクリスマス・イブにはプレゼントを交換したりいたしますのよ」
 彼は両手で受けとり、目を丸くして観察している。
 「ほう、私に?」
 「正確には、皆様にというところかしら」
 「開けても宜しいのかな?」
 「もちろん。刑務所の持ち物検査の要領で、どうぞ」
 トゥーフェイスは声をあげて笑い、優雅な手つきでリボンを解いていった。
 小箱の上蓋は簡単にとれた。
 スピルマンがそこからつまみとったものは、長い『鍵』であった。実用のものではなく、模造品である。パーティ用の小道具屋には色々な物が売られている。通信販売だから送料も払わねばならなかった。
 「鍵……ですかな?」
 自分の目の前で横にしたり縦にしたり、それがいったい何を開けるための鍵であるのか、彼らは首をひねっている。
 「むろん、ひとつのジョークなのでしょうな?」とスピルマン。「ご解説いただければ幸いですが」
 私はコートの襟を正し、両手をポケットにつっこんで眉をあげる。
 「ジョークと言えるかどうか。一種の切望に近い感情でしょうか」
 「切望ね」
 「この鍵で開けなければならないものは沢山ありますわ。あなたがたの心、刑務所の独房の扉、クライズヒルズの謎。正義の執行を願う市民のすべてはそれらが来年こそ解明されることを切望しているのです。それをおわかり頂ければわざわざプレゼントを運んできたかいがあったというものですわね」
 私は三人の顔を順々に見回した。三者三様のスタイルをとりながらも、苦いスパイスを噛み潰した不快さを覚えているのは明瞭である。このくらい、今年一年、私が味わってきた屈辱と挫折に比べれば何程のものでもあるまい。サンタ・クロースが望みのものを届けてくれるのは良い子の家だけだ。

アングルB

 すばやく身支度を整えた四人は階下へ急いだ。気を利かせたメイド、ポーターが時間稼ぎをしているはずである。客たちが挨拶に群がってくるのを押し避けながら、『バットマン』悪漢三人組はようやくプールサイドの席へ到着した。
 ほどなくして黒人の使用人ポーターに先導されて、モニカ・グラントが姿を現した。四十歳なのに爽やかで、子供がいるのに若々しい。明るいシャンデリアの下にくると、南国のインコのように鮮やかな赤毛が燃え立ってみえる。惜しいのはコートを羽織っていること。なければ肉感的な身体の輪郭が楽しめるのに……。
 『トゥーフェイス』に扮した刑務所長スピルマンは大袈裟な身ぶりで美人調査官を迎えた。
 「これはこれは意外なゲストの登場だ!」
 腕をとり、肉の柔らかさと骨の硬さを確かめながら握手する。
 「あら、スピルマン所長。招待状を出しておいて意外とは、おかしな話ではありませんこと?」
 モニカはいつものように、ちっとも恐怖心を起こさずにスピルマンと相対する。他の二人、保安官と弁護士はまるで見下しているかのようだ。
 「いやはやまったくおっしゃる通り。しかしまさか、清廉潔白の人権調査官殿が、いつも悪魔の使徒と嫌悪する我らがパーティに本当にお越し頂けるとは思いもよらぬところですからな。さ、まあどうぞ、お掛けください。ポーター、何をしている。早くシャンパンをお持ちしなさい」
 椅子をすすめたが、彼女の背中のバネはスピルマンの腕力を跳ねつけ、直立姿勢を保ったままである。
 モニカは皮肉っぽい微笑を浮かべる。笑うと鼻筋に小皺が寄るようだ。
 「まさか。大統領よりも謁見するのが難しいクライズヒルズの皇帝様のお誘いを受けて断る道理はないはずですわ。私のような下々の人間には滅多にないチャンスでございますから!」
 鋭い視線。妥協を許さない交渉態度を主義とする理想家の意志が光っている。ああ、この顔が、性的に上気してとろんとしたところを見てみたい。この意志が、惨めに屈服し、命乞いするまで落ちぶれる場面に立ち合いたい。
 スピルマンは己の腹の内を悟られぬように、にこやかに両手を広げ、声を高めていく。
 「グラント夫人におかれましては、今夜はとくに『念入りに』ご気分がお宜しいようでございますな。やはりクリスマスの夜も家族と離れてお仕事ができる幸福にエキサイトされていらっしゃるのでしょう。あなたのような女性にとって、それが何よりのキャリアになるのかもしれません。ご亭主やお子さまよりも、出世を愛していらっしゃるようですから!」
 キャリア志向の弱点をチクチク刺戟してやると、知的な美貌に不快感を露骨に滲ませて、グラント夫人は例の小箱をこちらへ投げてきた。
 手首のスナップだけを効かせたアンダースロー。山なりの軌道をとりながら、小箱はスピルマンの胸に落ちていく。
 「爆弾ではありませんわ。スピルマン所長。世間ではクリスマス・イブにはプレゼントを交換したりいたしますのよ」
 「ほう、私に?」
 「正確には、皆様にというところかしら」
 「開けても宜しいのかな?」
 「もちろん。刑務所の持ち物検査の要領で、どうぞ」
 トゥーフェイスは声をあげて笑った。なかなかジョークが効いている。クライズヒルズ刑務所の面会者に対する厳重な検査態勢は音に聴こえている。
 小箱の上蓋は簡単にとれた。
 長い『鍵』が出てきた。パーティ用の玩具であろう。
 「鍵……ですかな?」
 さすがのチェスの名手もこの一手には首をひねらざるを得ない。雌鳥め、過ぎた嫌みは怨恨を買う元だぞ。
 「むろん、ひとつのジョークなのでしょうな?」とスピルマン。「ご解説いただければ幸いですが……」
 モニカは美しい眉をあげる。してやったりの表情。
 「ジョークと言えるかどうか。一種の切望に近い感情でしょうか」
 「切望ね」
 「この鍵で開けなければならないものは沢山ありますわ。あなたがたの心、刑務所の独房の扉、クライズヒルズの謎……。正義の執行を願う市民のすべてはそれらが来年こそ解明されることを切望しているのです。それをおわかり頂ければわざわざプレゼントを運んできたかいがあったというものですわね」
 モニカは悪漢の顔を睥睨するように見回した。この一年、ノラリクラリと要求を拒否され続けたのだ。蓄積したストレスを少しでも解消せんと、わざわざ敵中まで乗りこんできたのは、来年の闘いの宣戦布告の意味もあるのかもしれぬ。新年のバケーションを悠々と過ごさせはしませんよと、クラクションを鳴らしたにちがいない。
 スピルマンも、パターソンも、ローエンも、この勇敢でインテリジェンスに溢れた大人の美女のヌードを思い浮かべた。
 5フィート6インチ……140ポンド……34D,26,34……ヴァギナが『中』で、アヌスが『大』……
 ロドリコ・ゴメスの肉の品評が甦る。

 本文より.............................................


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