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  婿泣かせの尻、嫁泣かせの薬 b

 「ただの黄色いリボン」
 「ど、どうするんだよ」
 「これで根元を縛ってやれば出したくても出せなくなる」
 朋子はそういうと本当に嬉しそうに笑った。
 やめろぉ、やめろぉ、と康彦は悲鳴をあげ身体を揺さ振るのだが、ベルトはびくともせず、ぎしぎしと鳴るばかり。
 「怒らなくともいいでしょう。幸福を呼ぶ黄色いリボンよ」
 クスクスと吹き出しながら朋子は彼女の手なしでもピーンと直立不動している肉棒にリボンをかける。
 「ちょっとしか痛くないわよ」
 アルトの澄んだ声が不気味な台詞を言ってのける。根元に回し、結び目をつくりギュッと引き絞った。
 「おおっ!」
 噴きこぼれる大袈裟な叫びを無視し、さらに強めて、そこで愛らしく蝶々結びをして留めた。
 「フフ、廉君、カワユイ」
 「なんだか、おしっこが止まる感じですよ」
 「そう、精液も止まる。血液もね。腫れる感じで神経が過敏になるのよ」
 朋子は黄色い蝶ネクタイをした一物の赤黒い亀頭をピンと爪で弾いた。そしてやおら身をくねらせて、ベッドに這いあがっていく。むろん康彦の上に折り重なるようにである。それも自分の貌を彼の股間に、尻を彼の胸へと、つまりはシックスナインの体位であった。よっこらしょと膝が康彦を跨いだ。康彦の視界のほぼすべてが女医のパンティストッキングに包まれた双臀に覆われてしまう。
 「!……」
 デカイ。巨臀だ。肉眼でもはっきりしないようなパンストの細かな編目が、包んでいる肉体の凹凸に応じて濃淡を作っているのだが、双つの尻肉だけは一杯に編目を広げ、尻肌に密着して皮膚の一部と化している。ムンと垂れ下る女陰にもみっちりと密着していた。
 (そうか。女がパンストを履く理由は脚を細く見せるためだけど、この白豚はケツを少しでも小さく見せようとしてこんな真似を)
 それにしたってこんなにデカイのだ。剥きみの肉臀はどんなにかムサ苦しいか……。
 「どう、醜いでしょう? 私のお尻?」
 朋子は康彦の胸に据えたヒップをネットリと左右に振りながら言った。
 「いえいえ、こんなパンチの効いたお尻、僕、見たことないなぁ」
 うかつに言えば何をされるかわからない。虜の身である。
 「ううン、駄目っ」
 「駄目?」
 朋子の尻が激しく揺さ振られる。ワイシャツのボタンが千切れそうだ。
 「このお尻がいいわけないでしょう。贅肉がついて、シミがあって、そして、ああっ、ケツの穴は汚くて!」
 しだいにアルトの声が裏返っていく。そればかりか、肉体がブルブルと震えだし、肛門を自罵するところでは、なんだか軽いアクメに達したかとでも思わせるような痺れを見せているのではないか。
 陰茎が強く握られた。
 「おっ」
 「言ってっ、本当のこと、言ってェ!」
 根をくくられ、ビンビンになっている急所をそうされては康彦も従うしかない。
 「醜いっ、醜いですよ、先生のお尻!」
 朋子の鼻から荒い息が洩れた。ケダモノのような喘ぎが咽喉にくぐもり、そして口から悩ましい吐息となって噴きこぼれる。
 (そうか! マゾなんだ、この女っ)
 康彦はてっきり逆かと思ったのだが、ようやく合点がいった。こういう風に拘束でもして半強制的に導かなければ康彦のように気の小さいノーマルな男は逃げてしまうと思ったのだろう。
 「あーン、廉君、もっとっ──」
 そう叫ぶと朋子は康彦の亀頭からかぶりついた。
 「ひっ……(ち、ちくしょう。こうなったらとことんやったるで)医、医者のくせにこんな変態女だとは思わなかったぜ。なんだこのケツ! 恥知らずにデカくなりやがって」
 どこかぎこちないが、康彦の罵倒に朋子はプッツン切れたように全身が汗ばみはじめ、雀斑がさらに多い肩甲骨の間まで赫い助平色に染まってきた。
 「肌も肌理が粗いし、張りがないし、弛んだザマはゲップがでちまうよ」
 心の底で愛妻、晶と比較していたのか、言葉はポンポンと飛び出してくる。
 「歳は取りたくないもんだな、朋子! ウンチを捻りだす回数が多いほど、ここの色も汚れてくるってか。ブタの鼻の穴みたいだぜ」
 また常識を踏み躙るような侮蔑の言葉を次々に口にする行為によって康彦の側にも微妙な変化が生じてくる。そうすることで不思議な力、尋常な状態ではありえないような力が漲ってくる感じなのだ。そうでなければ早漏の廉君が、朋子の口技を食らってこれほどの時間耐ええるわけもないのだった。
 「オッパイだって、巨きければ巨きいほど垂れ下るのもひどくて、もう、触ってみたくもないわい」
 「あーン、奥さんと比べないでっ」
 女の第六感とでもいうのだろうか、鋭く康彦の心の内を読んだらしい四十女は亀頭を吐き出すと、自らの唾液と廉君の前液とでヌラヌラになった口──ルージュも融けかかり口のまわりはその真紅も混ざりあっている──で、悲鳴をあげるように叫ぶ。好きな男の前に全裸を投げ出し、こうして上になって奉仕しているのに、違う女と比べられ蔑まされる口惜しさときたら! むろんそのシチュエーションこそが田中朋子の脳髄を狂わせるほどの昂奮へと導くのである。
 「晶の方が何十倍も何百倍も、いや、比べものにならないくらい素晴らしいぞっ、白豚っ、太りジシっ、売女っ、マゾ牝っ、スットコドッコイ!」
 「ヒィーッ──」
 康彦のたたみかけるような悪罵に朋子は極まったように被虐の声をあげ、黒髪をおどろに乱して仰けぞるのである。


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